腱板断裂(肩腱板断裂)とは|腕を上げる時に肩に違和感があったら要注意
肩は体の中でも最も動く範囲が広い反面、脱臼などさまざまな障害が起こりやすい不安定な部位でもあります。腱板断裂は肩甲骨と上腕骨をつないで肩関節を安定させている腱板の断裂を指します。今回はスポーツによるオーバーユースでも起こる腱板断裂ついてとりあげます。
腱板断裂(肩腱板断裂)とは
肩関節のしくみ
肩は体の中で最も動く範囲が広い部位です。肩は3つの骨と三角筋・大胸筋(だいきょうきん)・僧帽筋(そうぼうきん)などの外側の筋肉(アウターマッスル)と内側の筋肉(インナーマッスル)で作られています。腱板はインナーマッスルに該当します。これらの筋肉の働きによって、肩はダイナミックな動きをすることができるのです。
一方、それらの筋肉により補強されている肩関節は、いわゆる球関節(きゅうかんせつ)であり、可動性が高い分、安定性が犠牲になっています。ちょうどゴルフのティーにゴルフボールが乗っているような状況を想像してもらうと良いでしょう。
腱板(肩腱板)とは?
腱板は回旋筋腱板(Rotator Cuff、ローテーターカフ)とも呼ばれ、肩にある筋肉と腱の集まりです。棘上筋(きょくじょうきん)、棘下筋(きょくかきん)、小円筋(しょうえんきん)、肩甲下筋(けんこうかきん)の腱が肩関節をとりかこみ、保持しながら補強をしています。腱板は肩甲骨と上腕骨を連結し、主に腕のさまざまな動きに関わっています。
腱板断裂(肩腱板断裂)とは?
腱板断裂は腱板の断裂により痛みと筋力低下が生じる疾患です。腱板断裂はその原因により大きく外傷性断裂と変性断裂に分かれます。
外傷性断裂はケガが原因で起こるもので、変性断裂は加齢による腱板の劣化が原因です。特に変性断裂は症状がなく進行することがあります。高齢者になると腱板の変性が進むため、日常生活の中での軽い力でも切れやすくなります。40代以上の方が肩を痛める原因としてありふれた疾患であり70歳以上ではかなりの有病率と言われています。
一方、野球やバレーボールなど腕を頭上に大きく動かすスポーツでは、使いすぎ(オーバーユース)が原因となり、若い人でも腱板断裂が起こることがあります。
腱板断裂(肩腱板断裂)の痛みや症状はどのようなもの?
腱板断裂には、「部分断裂」と「完全断裂」の2つの種類があります。
- 部分断裂:腱板が一部だけ損傷しており、腱が骨にまだ一部つながっている状態です。
- 完全断裂:腱板が完全に切れており、骨から完全に離れています。
主な症状は次のとおりです。
- 腕を上げたり下げたり、または回したりする際に感じる痛み、違和感、筋力の低下。
- 腕を動かす特定の動きで「ポキポキ」や「ゴリゴリ」といった音や感覚がある。
- 夜間や腕を休めているときに強くなる肩の痛み。進行すると痛みで夜中に目覚めてしまう程になる。
- 肩の力が弱まり、物を持ち上げるのが難しくなる。
肩の痛みや動きの制限がある点で、腱板断裂は五十肩と似ています。しかし、大きな違いとして、腱板断裂では関節が硬くなる「拘縮」があまり見られません。五十肩では、腕が一定以上上がらなくなることが多いのに対し、腱板断裂では腕を上げることはできても、上げ下げの途中で痛みを感じるのが特徴です。ただし、正確な診断には医療機関での検査が必要です。
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腱板断裂(肩腱板断裂)の診断と治療
腱板断裂(肩腱板断裂)の診断
腱板断裂は、通常のレントゲン画像では確認が難しいことが多いです。診断には、腱板を詳しく映し出せるMRIや超音波検査が用いられます。
腱板断裂(肩腱板断裂)の治療
腱板断裂の治療には、保存療法(手術を伴わない方法)と手術療法があります。
保存療法:保存療法では、腱板断裂が完全に治るわけではありませんが、肩の筋力を強化することで痛みを軽減し、機能を改善できる場合があります。実際、部分断裂の場合、多くが保存療法で症状が改善すると考えられています。ただし、回復には数か月から1年ほどかかることがあります。
具体的な方法としては、以下のようなことがあげられます。
- 肩の安静とサポーターなどの活用:一定期間スポーツをひかえることや、サポーターを使用します。
- 理学療法:肩周辺の筋力を強化し、柔軟性を向上させる運動を行います。
- 消炎鎮痛剤を中心とした薬物療法:痛みや腫れを抑えます。
- ヒアルロン酸やステロイド剤の関節内注射:肩の痛みや炎症を和らげるために使用します。
手術療法:完全断裂や保存療法で症状が改善しない場合、または仕事やスポーツに支障をきたす場合には手術が検討されます。多くの場合、切開を行った上で関節鏡を用いて行われます。必要に応じて、より大きな切開を伴う開放手術が行われる場合もあります。回復には数か月から1年以上かかることがあります。
腱板断裂(肩腱板断裂)の予防とおすすめのストレッチ
腱板断裂(肩腱板断裂)の予防
肩と肩甲骨の連動を理解する:肩の動きには肩甲骨の動きが深く関係しており、肩を動かすときには必ず肩甲骨も一緒に動いています。このため、肩だけでなく肩甲骨周辺の筋肉の一部の動きが悪かったり、柔軟性が低下していたりすると、他の筋肉が代わりに負担を受け、全体のバランスが崩れます。このバランスの乱れがケガの原因になることがあります。
日常的なストレッチとケア:肩や肩甲骨の動きを良く保つためには、日常的にストレッチを行い、筋肉の柔軟性を維持・向上させることが大切です。柔軟性が低下していると感じた場合は、トレーナーや専門家に相談し、早期に適切な対処を行いましょう。また、肩を使いすぎた後にはアイシングをする習慣をつけることで、炎症や疲労を軽減できます。
スポーツ時の注意点:野球やバレーボール、ラケットスポーツなど肩を頻繁に使うスポーツを行う場合は、肩関節を安定させるトレーニングを積極的に取り入れることが重要です。さらに、肩への負担を減らすためには正しいフォームでプレーすることが欠かせません。
腱板断裂(肩腱板断裂)の予防やリハビリにおすすめのストレッチ
医師が運動を始めてもいいと言ったら、肩の動きを少しずつ増やしていきましょう。『五十肩(肩関節周囲炎)を和らげ、肩の動きをサポートするストレッチ』でも紹介した「コッドマン体操」や、「肩・胸のストレッチ」で肩と肩甲骨周辺の柔軟性を向上させましょう。
1. 振り子ストレッチ:Codman(コッドマン)体操
- 肩をリラックスさせて立ちます。
- 少し体を前に傾け、痛みのある方の腕を下げます。
- 机などに反対の手をつきます。
- 腕を小さな円を描くように振ります。
- 前後左右に10回転ずつ行います。
- 症状が改善してきたら、スイングの直径を大きくしますが、無理のない範囲で行ってください。
- さらにストレッチを強化したい場合は、振り腕に軽い重り(家庭用のアイロンなど)を持ちます。
2. 立ったまま行う肩・胸のストレッチ①
- 柱など、肩より少し高い位置に手をつきます。
- 体を回転させて、胸と肩を伸ばします。
- 左右15~30秒キープしましょう。
- 膝を曲げて、高さを変えると強さに変化を与えられます。
3. 立ったまま行う肩・胸のストレッチ②
- 両手を壁につき、床に向かって胸をできるだけ下げます。
- 15~30秒キープします。
4. 立ったまま行う肩・胸のストレッチ③
- 手を後ろで組み、胸を開きながら両手をできるだけ下ろします。
- 肩をあげないように手をあげていきます。
- 15~30秒キープします。
5. 立ったまま行う肩・胸のストレッチ④
- ひじに反対側の手を添え、外側に引き上げます。
- 15~30秒キープします。
- ひじの高さを変えると伸ばす部位に変化をつけられます。
6. 座って行う肩・胸のストレッチ①
- 四つん這いになり、手を遠くに置きます。
- 胸をできるだけ床に近づけます。
- 15~30秒キープします。
7. 座って行う肩・胸のストレッチ②
- 四つん這いになり、片手をもう片方の手にのせます。
- 肩・肩甲骨の外側を床にできるだけ近づけます。
- 左右それぞれ15~30秒キープします。
参考文献
- 『SPORTS MEDICINE LIBRARY』ZAMST
- 『SPORTS MEDICINE LIBRARY 対策HANDBOOK 肩・ヒジ・手首・指の痛み』ZAMST
- 医療情報科学研究所『病気がみえるvol.11 運動器・整形外科』メディックメディア
記事監修・整形外科医
- 毛利 晃大先生
- 順天堂大学医学部卒業、日本救急医学会専門医、日本整形外科学会会員 日本医師会認定スポーツ医、日本バスケットボール協会スポーツ医学委員会所属ドクター