スポーツで多い腰の痛み、筋・筋膜性腰痛|予防とストレッチ
「令和4年国民生活基礎調査」によると、自覚症状として最も多いのは男女ともに腰痛でした。腰痛は日本で最も一般的な健康問題の一つです。さらに、スポーツを楽しむ人の中では、約27.1%が慢性的な関節や筋肉の痛みを抱えており、そのうち腰の痛みを感じている人は55.1%にのぼります※。腰痛と一口に言ってもさまざまな原因がありますが、今回はスポーツ活動などで筋肉や筋膜が損傷することによって起こる筋・筋膜性腰痛症について説明します。
※2022年9月 ザムスト調べ(対象:30代~50代 男女)
筋・筋膜性腰痛とは
腰の役割と腰痛
腰は、前後や左右に体を動かすための重要な部位であり、上半身を支えながら、下半身からの衝撃も吸収しています。そのため、特にスポーツ時には常に大きな負担がかかりやすく、ケガや痛みが発生しやすい場所です。
筋力が低下すると、脊柱を十分に支えることができなくなり、S字カーブが崩れやすくなります。これが腰痛の原因となることがあります。腰痛予防のために周囲の筋肉を強化することが推奨されるのはそのためです。
筋・筋膜性腰痛とは? いわゆる、ぎっくり腰との違いは?
筋・筋膜性腰痛は、腰に過度な負担がかかることで、腰周辺の筋肉や筋膜が損傷し、痛みを引き起こす疾患です。急性の筋・筋膜性腰痛は、いわゆる「腰の肉離れ」や「腰椎捻挫」と呼ばれ、屈伸や回旋、衝撃などスポーツ中の無理な動作によって背筋に過度な負荷がかかることで発症します。日常生活でも重い物を持ち上げたり、同じ姿勢を長時間続けたりすることでも起こることがあります。一方、慢性の筋・筋膜性腰痛は、使い過ぎ(オーバーユース)によって腰の筋肉に疲労が蓄積し痛みが生じます。
「ぎっくり腰」は、突然生じる強い腰の痛みを指す一般的な呼び名であり、医学的な病名や正式な診断名ではありません。主な原因としては筋・筋膜性腰痛が多いと考えられています。ただし、足に痛みやしびれが出たり、力が入りにくくなったり、坐骨神経痛の症状がある場合は、椎間板ヘルニアなどの別の疾患が疑われることもあるため、早めに整形外科を受診することをおすすめします。
筋・筋膜性腰痛はどんなスポーツや動作でなりやすいの?
ピッチングやジャンプ、スイングといった動作や、体幹を過度に反らす背筋の動き、屈曲する腹筋や回旋する腹斜筋など、中腰から腰をひねる動作によって、スポーツ全般で腰痛が発生することがあります。特に、腰に大きな負担がかかる激しい動作が原因となりやすいですが、前傾姿勢を長時間保つ動作や、ジャンプスポーツの着地時に受ける衝撃も腰痛の一因となることがあります。
筋・筋膜性腰痛の痛みは?
症状としては、腰椎に沿った腰痛や圧痛、体を動かした時の運動時痛が挙げられます。急性の場合、激しい痛みで動けなくなることもあり、何をしても痛みを感じるようになることもあります。通常、強い痛みは数日で治まり、1か月ほどで回復することが多いでしょう。ただし、急性期に無理をして試合に出続けるなど、腰に負担をかけ続けることで、痛みが慢性化し、治りにくくなる可能性があるので注意しましょう。
一方、慢性の場合は、過度な使用(オーバーユース)による疲労が原因となり、背筋の緊張が強まり、筋肉に沿って痛みが出ることが特徴です。
筋・筋膜性腰痛の治療とリコンディショニング
筋・筋膜性腰痛の診断
腰痛には、筋・筋膜性のもの以外にも、骨や神経の問題、内臓疾患、さらには心因性の要因によるものも存在します。例えば、椎間板ヘルニアや腰椎分離症・すべり症、変形性腰椎症などは、それぞれに合った治療が必要です。もし、足のしびれや筋力の低下、坐骨神経痛がある場合は、MRI、X線、CTなどの検査で他の病気の可能性を確認し、これらの疾患との区別が必要です。腰の痛みを軽視せず、整形外科などの専門医を受診して、適切な診断を受けることをおすすめします。
筋・筋膜性腰痛の治療とケア
急性の腰痛では、動くのが難しくなることがあります。そのような場合は、まず安静にし、次に患部を冷やすことが大切です。ただし、安静が長すぎると筋力や柔軟性が低下する恐れがあるため、痛みがやわらいだら早めにストレッチを始めることが推奨されます。さらに、薬物療法(消炎鎮痛剤や湿布などの外用薬)や、物理療法(ウォーターベッドや電気治療、低周波、干渉波、体外衝撃波)、または装具療法(腰痛ベルトやサポーター)など、さまざまな治療方法があります。これらは症状や病状に応じて使い分けられますので、専門医と相談しましょう。
腰の痛みをやわらげる家庭でできる腰痛ケア
1. 安静にしてラクな姿勢をとりましょう
背中を丸めて横向きに寝ます。 足は「く」の字に曲げましょう。仰向けの場合、足の下に座布団などを入れて足を上げましょう。うつぶせの場合、おなかの下に座布団を入れるとよいでしょう。
2. (急性の腰痛時)腰を冷やしましょう
うつぶせになって、ラクな姿勢で冷やしましょう。はじめは短い時間で行います。冷やしすぎには要注意。ヒリヒリしてきたらやめましょう。また、痛みが増す時も中止してください。
3. 痛みが治まったら腰を温めます
急性の腰痛が軽くなった後や、慢性の腰痛の場合には、ホットパックや蒸しタオルなどで腰を温めましょう。 なお、打撲・外傷・ハレ・熱がある時は温めてはいけません。
4. 腰の疲れをとるためにマッサージをします
マッサージは腰の筋肉をリラックスさせ、血行をよくします。但し、急性の腰痛時には行ってはいけません。
筋・筋膜性腰痛のストレッチと再発予防エクササイズ
筋・筋膜性腰痛のストレッチ例
膝を使ったストレッチ
- 膝を曲げて足を床に平らに置き、仰向けに寝ます
- 両手を使って片方の膝を引き上げて胸の方に押しつけます。腹部の筋肉を引き締め、背骨を床に押しつけるように意識します。5秒間そのままにします
- 反対の足でも繰り返します
- 最後に両足で行います
それぞれ数回繰り返します
腰を回転させるストレッチ
- 膝を曲げて足を床に平らに置き、仰向けに寝ます
- 肩を床にしっかりとつけたまま、曲げた膝をゆっくりと片側に倒し5~10秒間保持します
- ゆっくりと開始位置に戻ります
- 反対側でも繰り返します
それぞれ数回繰り返します
猫のポーズのストレッチ
- 四つん這いになります
- 頭を下げながら、お腹を天井に向かって引き上げるように、ゆっくりと背中をまるめます
- 次に、頭を上げながら、背中とお腹をゆっくりと床に向かって下げます
開始位置に戻り、数回繰り返します
肩甲骨を引き寄せるストレッチ
- 肘掛けのない椅子にまっすぐ座ります。
- 肩甲骨を寄せます。(※やりにくければ、うしろで両手をつないで垂らした状態で肩甲骨を引き寄せてもかまいません)
5秒間そのままの姿勢を保ち、リラックスします。
この流れを数回繰り返します
腰痛が続いている、あるいは治まった直後にストレッチを開始する場合は、専門医に、自分にとって安全なストレッチかどうかを相談してから試してみましょう。
筋・筋膜性腰痛の再発予防エクササイズ
痛みの再発防止には、腰を支える筋力をアップさせることが効果的です。毎日、手軽に行えるトレーニングをご紹介します。
起き上がり運動
- 仰向けになり膝をまげ、頭のうしろに手を置きます
- 肩を床から25cmほど上げたところでそのまま5~10秒ストップします
- ゆっくりともとの姿勢に戻り、腹式呼吸をします
この流れを3~5回繰り返します
おへそのぞき運動
- 仰向けになり膝をまげ、 両手をおなかの上に置きます
- 息をはきながらおへその部分をのぞき、腹筋とおしりの筋肉に力を入れるようにします
この流れを3~5回繰り返します
両足かかえ運動
- 仰向けになり、膝を曲げて両足を両手でつかみます
- 膝を胸に引き寄せます
- できれば、両膝を開き、ワキの下につくまで引き寄せると効果的です
この流れを3~5回繰り返します
上体起こし運動
- うつぶせになり、両手を体の横に置きます
- 上体をゆっくりと起こし、5秒ほどストップ。おなかの下に枕などを入れるとラクに行えます
この流れを3~5回繰り返します
いずれも再発予防のためのエクササイズです。エクササイズで痛みの出る方は、すぐに中止してください。
参考文献
- 『SPORTS MEDICINE LIBRARY 対策HANDBOOK 腰の痛み』ZAMST
- 『SPORTS MEDICINE LIBRARY 筋・筋膜性腰痛症』ZAMST
記事監修・整形外科医
- 毛利 晃大先生
- 順天堂大学医学部卒業、日本救急医学会専門医、日本整形外科学会会員 日本医師会認定スポーツ医、日本バスケットボール協会スポーツ医学委員会所属ドクター
腰の痛みについてより深く学びたい方へ
各痛みに関するドクターによる症状解説、トレーナーによる対処法解説がアーカイブ化されています。
※サポーターの使用によりこれらの症状に効果があるわけではありません。