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仙腸関節炎(仙腸関節障害)|腰やお尻など骨盤周辺の痛み

仙腸関節は骨盤にある仙骨と腸骨の間に位置する大きな関節です。この関節は、上半身と下半身の間で衝撃を吸収し安定させる役割を担っており、強力な靭帯と筋肉によって支えられています。仙腸関節炎(仙腸関節障害)は、この仙腸関節に炎症などが生じることで発生する障害で、原因は多岐にわたりますが、スポーツによる過度な使用(オーバーユース)もその一因となります。今回は、しばしば「腰痛」として一くくりにされることが多い仙腸関節炎について整理します。

仙腸関節とは

仙腸関節とは

腰は、5個の骨が積み重なった腰椎(ようつい)と骨盤からつくられています。特に、骨盤の後ろ側にある仙骨と腸骨が、体を支える基盤として大きな役割を果たしています。仙骨は主に上半身の体重を受け止める一方、腸骨は足が地面から伝わる力を受け止め、これら2つの骨が組み合わさっているのが仙腸関節です。この関節は、上半身と下半身の間で衝撃を吸収し、体の動きを安定させます。

仙腸関節の動きは非常にわずかで、どの方向にも約2~4mmの範囲でしか動きません。歩いたり走ったりする際、上半身と下半身からの力が反対方向に作用し、仙腸関節には強い負荷がかかりますが、仙腸関節の周囲は頑丈な靭帯によりしっかりと補強され、安定した動作を可能にしています。

仙腸関節まわりの筋肉

仙腸関節の安定性は、靭帯だけでなく、周囲の筋肉によっても支えられています。具体的には、大殿筋(だいでんきん)、梨状筋(りじょうきん)、中殿筋(ちゅうでんきん)、小殿筋(しょうでんきん)などの股関節まわりの筋肉が重要な役割を果たしており、これらの筋肉が協力して仙腸関節をサポートし、体の安定性を保っています。

どんなスポーツをする人が仙腸関節炎(仙腸関節障害)になりやすい?

仙腸関節炎は、片足に体重が繰り返しかかるような動きが多いスポーツで特に発生しやすいといわれています。例えば、サッカーの切り返しや体重移動がその一例です。また、フィギュアスケートやゴルフ、ボウリングといった旋回動作を伴うスポーツでも、仙腸関節に負担がかかりやすく、発症リスクが高いとされています。

仙腸関節炎(仙腸関節障害)の痛み

仙腸関節炎の痛みは、腰や骨盤周辺だけでなく、お尻や足の付け根(鼠径部)、さらには下肢にまで広がることがあります。特に、左右両方ではなく、片側の腰やお尻に痛みが現れることが多いのも特徴です。また、腰痛を伴うことが多く、腰痛の約25%が仙腸関節の問題に起因している可能性があると報告している論文もあります。このため、仙腸関節の痛みがしばしば「腰痛」としてまとめて判断されてしまうことが多いのです。

仙腸関節炎(仙腸関節障害)の見分け方

腰やお尻の痛みは多くの原因が考えられるため、仙腸関節炎を特定するのは非常に難しいとされています。特に、レントゲンやCT、MRIといった画像診断では異常が見つかりにくく、これらの検査だけで仙腸関節炎だと断定することは困難です。

 

同じ部位に痛みが現れる疾患として、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、坐骨神経痛、変形性股関節症、さらには骨折や腫瘍などが考えられます。

 

そのため、整形外科医などの医療機関では、患部に特定の圧痛があるかを確認し、さらに問診や痛みを引き起こす特定の動作を行う検査を組み合わせて、総合的に診断を行います。これにより、他の疾患との区別を慎重に行いながら、仙腸関節炎かどうかを判断することになります。

仙腸関節の治療とリハビリテーション

医療機関での治療では、まず炎症が強く痛みが激しい段階では、安静を保ちながら鎮痛薬で痛みを和らげ、骨盤ベルトやコルセットで関節を安定させる保存療法が取られます。基本的には、患部を動かさないことが治療の中心となります。もしこの保存療法で症状が改善しない場合は、仙腸関節にブロック注射を行い、痛みを緩和することが検討されます。

 

痛みが軽減した後は、リハビリテーションを通じて関節周囲の筋肉をほぐし、筋力を強化することが重要です。特に、硬くなりがちな筋肉のストレッチや、弱くなった筋肉を鍛えるエクササイズが効果的です。ただし、自己判断で早期にストレッチを始めると、症状を悪化させるリスクがあるため、必ず専門家の指導のもとで行うように注意が必要です。

仙腸関節炎(仙腸関節障害)の予防としてのストレッチ

梨状筋(りじょうきん)のストレッチ

梨状筋は仙腸関節の近くにあり、痛みがあると過度に緊張して硬くなりやすいため、この筋肉をほぐすことで仙腸関節へのストレスを和らげることが期待できます。

椅子に座って背筋を伸ばし、右足のくるぶしを左足の上にのせます。
ゆっくりと上半身を前に倒し、お尻が伸びて気持ちいいと感じるところで20秒キープ。これを3回繰り返します。   反対側の足も同じように行いましょう。

大腿四頭筋(だいたいしとうきん)・腸腰筋(ちょうようきん)のストレッチ

背骨・骨盤・太ももにかけて存在する腸腰筋(ちょうようきん)は、骨盤を安定させる働きがあることから、結果的に仙腸関節への負担を軽減します。

 

※大腰筋(だいようきん)と小腰筋(しょうようきん)、腸骨筋(ちょうこつきん)という3つの筋肉の総称

図の状態から、かかとをお尻に近づけます。
胸を張って腰を前に出します。15~30秒キープしましょう。
足の位置を変えることで伸ばす部位を変えられます。

ハムストリングスのストレッチ

ハムストリングスは、太ももの裏側にある3つの筋肉、大腿二頭筋(だいたいにとうきん)、半腱様筋(はんけんようきん)、半膜様筋(はんまくようきん)を指します。ハムストリングスが硬くなると、骨盤が後ろに傾きやすくなり、その結果、腰椎や仙腸関節に余計な負担がかかる姿勢になりがちです。

片脚の付け根に手を添えます。
胸を張ってお尻を引きます。痛みや緊張、震えを感じない範囲で行いましょう。
つま先の向きを変え、伸ばす部分を変えます。
15~30秒キープ。この運動を左右で2〜4回行います。

参考文献

  • 『SPORTS MEDICINE LIBRARY 対策HANDBOOK  腰の痛み』ZAMST
  • 医療情報科学研究所 『病気がみえるvol.11 運動器・整形外科』メディックメディア
  • Raj MA, Ampat G, Varacallo M. Sacroiliac Joint Pain. [Updated 2023 Aug 14]. In: StatPearls [Internet].
  • Simopoulos TT, Manchikanti L, Gupta S, Aydin SM, Kim CH, Solanki D, Nampiaparampil DE, Singh V, Staats PS, Hirsch JA. Systematic Review of the Diagnostic Accuracy and Therapeutic Effectiveness of Sacroiliac Joint Interventions. Pain Physician. 2015 Sep-Oct;18(5):E713-56.

記事監修・整形外科医

毛利 晃大先生
毛利 晃大先生
順天堂大学医学部卒業、日本救急医学会専門医、日本整形外科学会会員 日本医師会認定スポーツ医、日本バスケットボール協会スポーツ医学委員会所属ドクター