鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群)|サッカー選手に多い鼠径部の痛み
鼠径部の痛みはサッカーやホッケーなど、激しい切り返しや、キック動作が多いスポーツに取り組むアスリートに多く見られます。この痛みには直接的なものや間接的なものなど、様々な原因があり、一般的に鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群)と呼ばれます。今回は、鼠径部痛症候群としてまとめられる痛みのうち、特にスポーツによる障害として発生する鼠径部の痛みについてまとめています。
鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群)とは
鼠径部の痛みの原因は様々ですが、最も一般的なのは鼠径部の筋肉や腱の損傷です。スポーツによる過度な使用などで、体幹から股関節にかけて筋力や柔軟性が低下し、筋肉や腱が損傷しやすくなると考えられています。
※腱が大きく損傷したり裂けたりした場合は、スポーツ性恥骨痛(スポーツヘルニア)と分類されることがあります。
鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群)の症状となりやすい人
鼠径部痛とはどんな痛み?
スポーツが原因の場合、筋肉や腱が損傷した瞬間に、鋭く引っ張られるような感覚や引き裂かれるような痛みが生じます。その後、動くたびに鼠径部にしつこい痛みを感じることがあり、この痛みは数日から数週間続くことがあります。痛みは突然始まることもあれば、徐々に悪化することもあります。休むと症状が軽くなりますが、再び動き出すと再発します。慢性化すると、鼠径部に常に痛みがあり、股関節の可動域が制限され、筋力低下も見られるようになります。
鼠径部痛はどんな人がなりやすい?
スポーツが原因の場合、ホッケーやサッカー、フットボール、陸上競技(中・長距離)など、頻繁に方向転換や旋回、キック、全力疾走を行う競技者に、これらの鼠径部痛が発生するリスクが高いとされています。特に、20歳前後の男性選手に多く見られるのが特徴です。
鼠径部の筋肉または腱の損傷以外の鼠径部痛の原因
鼠径部の筋肉や腱の損傷以外にも、鼠径部に痛みを引き起こすケースがあります。スポーツでは、バスケットボールやテニスで多い恥骨の疲労骨折や、使いすぎによって起こる恥骨結合炎が代表的です。さらに、スポーツによる怪我以外にも、鼠径ヘルニア、股関節炎、骨折、陰嚢水腫、陰嚢腫瘤、卵巣嚢胞、尿路感染症(UTI)、前立腺炎、神経系の病気など、様々な原因で痛みが生じることがあります。こうした様々な原因ごとに治療方法も異なるので、鼠径部に痛みを感じた場合は、まず医療機関での受診をお勧めします。
鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群)の治療とリコンディショニング
鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群)の治療
治療は、前述のように鼠径部の痛みの原因に応じて行われますので、医師の指示に従って治療を進めることが大切です。スポーツによる軽い筋肉のストレスが原因の場合、通常は休息などの保守的な対策で痛みを和らげることができます。痛みが強い場合には、約2週間のスポーツ休止が必要です。痛む部位の局所安静(ランニングやキックの禁止)、アイシング、必要に応じて温熱療法(ホットパック)や消炎鎮痛剤の投与、ステロイドホルモンの局所注射なども治療に用いられます。
非外科的治療を2〜6か月行っても痛みが続く場合には、手術が必要になることがあります。手術の種類は、損傷した筋肉や腱、またその損傷の程度に応じて異なります。
鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群)のリハビリテーション
初期のリハビリは、股関節の外転可動域訓練や筋力強化、内転筋のストレッチから始めます。その後、水中での歩行やエアロバイクを使った免荷訓練を行い、徐々にジョギングへと進みます。約2か月後にはボールキックの練習も再開できます。ただし、痛みがなくなったからといって早く復帰しすぎると、再発のリスクが高まるため注意が必要です。慢性化すると、2〜3か月以上のスポーツ休止が必要になる場合もあるため、焦らず慎重にリハビリを進めましょう。
鼠径部痛症候群(グロインペイン症候群)の予防としてのストレッチ
この症候群の予防としては、股関節まわりの筋肉の柔軟性を維持することが重要です。特に、股関節内転筋群の柔軟性を保つことがポイントです。内転筋、伸筋(大殿筋・ハムストリングス)、屈曲筋(腸腰筋・大腿直筋)などのストレッチが推奨されます。ストレッチは1回あたり15〜30秒を目安に続けましょう。
1 股割り
- 足を開いて膝を曲げ、膝の内側に当てた手で膝を外に開きます。
- 胸を張ってお尻を突き出すような体勢をとります。
- 肩を前に出して、手のひらを外側に押し出します。胸を張ってお尻を突き出す姿勢は維持しましょう。
2 伸脚
- (股割りの体勢から)膝を伸ばします。
- 胸を張ったまま、さらに深く伸ばすと強度があがります。
3 台を使った伸脚
- つま先と膝を正面に向け、膝を曲げて胸を張ります。
- 足首を持つと、さらに深く伸ばすことができます。しっかり胸を張って、深く曲げることで強度もあがります。
4 内転筋のストレッチ
- 膝を押しながら、胸を張って頭を高く維持します。
- ペアで行う場合は膝を下に押してもらいます。曲げた膝の角度を変えることで、伸びる部位が変わります。
5 内転筋のストレッチ(ペア)
- つま先が上を向くようにします。ペアが腰を押すことで骨盤の前傾を保ちます。
- 左右に続き正面を行います。脚が閉じないように注意しましょう。
6 内転筋のストレッチ(ペア)
- 膝を曲げた状態で足を開きます。ペアは膝を適度な力で下に押します(手を外側に開くように斜め下方向に押す)
- 膝の角度を変えることで伸びる部位が変わります。15~30秒キープしましょう。
- 片側ずつ行ってもよいでしょう。
- 左右15~30秒キープします。
7 内転筋のストレッチ(ペア)
- ペアは上げてない足が浮き上がらないように抑えながら、上げた足を股関節から内側に捻ります。
- その状態から足を上に引き上げながら外側に倒します。
- 左右15~30秒キープします。
8 ハムストリングスのストレッチ
- 脚の付け根に手を添えます。
- 胸を張ってお尻を引きます。痛みや緊張、震えを感じない範囲で行いましょう。
- つま先の向きを変え、伸びる部分を変えます。
- 15~30秒キープ。この運動を左右で2〜4回行います。
9 ハムストリングスのストレッチ
- 膝を曲げ外側に向けます。
- その状態から足を胸の方向に押します。
- 膝の角度を変えることで伸びる部位が変わります。15~30秒キープしましょう。
10 大腿四頭筋・腸腰筋(ちょうようきん)のストレッチ
- かかとをお尻に近づけます。
- 胸を張って腰を前に出します。
- 15~30秒キープしましょう。
- 足の位置を変えることで伸ばす部位を変えられます。
11 大腿四頭筋・腸腰筋(ちょうようきん)のストレッチ(横臥位)
- 横になってかかとをお尻に近づけます。
- お腹に力を入れ、膝を後ろに引きます。
- 15~30秒キープします。
12 大腿四頭筋・腸腰筋(ちょうようきん)のストレッチ(伏臥位)
- 片足を反対側に倒します。
- 手と足をなるべく遠くに離します。
- 15~30秒キープします。
参考文献
- 『SPORTS MEDICINE LIBRARY』ZAMST
記事監修・整形外科医
- 毛利 晃大先生
- 順天堂大学医学部卒業、日本救急医学会専門医、日本整形外科学会会員 日本医師会認定スポーツ医、日本バスケットボール協会スポーツ医学委員会所属ドクター
足の痛みについてより深く学びたい方へ
各痛みに関するドクターによる症状解説、トレーナーによる対処法解説がアーカイブ化されています。
※サポーターの使用によりこれらの症状に効果があるわけではありません。