2024.04.26
スポーツと紫外線|紫外線対策とパフォーマンス
みなさんは屋外スポーツをする時、あるいはスポーツ観戦の際に紫外線対策はしていますか? 最近ではパフォーマンスを落とさないために、日焼け止めを塗っていると語るトップアスリートも増えており、紫外線対策への意識も高まってきました。今回は、長らくスポーツ医学における皮膚の研究と実践を牽引してこられた上田由紀子先生に、特にスポーツにおける紫外線対策について伺いました。
日焼けはパフォーマンスに悪影響?
上田先生は国立スポーツ科学センターにおけるご経歴に加え、多くのトップアスリートの皮膚の相談にも乗ってこられました。紫外線対策については数十年前と比べ選手の意識は変わってきましたか?
例えば先日も大谷翔平選手による日焼け止めの広告が発表されましたね。紫外線に対する意識について、選手も、とりまく社会も大きく変わってきている象徴的な出来事だと感じました。10年以上前になりますが、私があるスポーツの代表チームにおいて、紫外線対策の重要性について選手たちにアドバイスをしはじめた際には、チームの指導者から「競技に集中させたいから練習に関係ない話はやめてほしい」と言われたことさえありました。今では多くのアスリートは自発的に対策を取るようになっていますし、指導者にも積極的に紫外線対策を取り入れている人が増えてきました。
あらためてスポーツにおける紫外線対策の重要性について教えていただけますか?
紫外線とは
太陽光は気分を明るくしますし、骨を丈夫にするビタミンDを生成することもできますが、皮膚に関していえば危険性のほうが強いと言ってもよいでしょう。特に紫外線に関してはさまざまな皮膚の障害の原因となることが知られています。日焼けによる紅斑(サンバーン/sunburn)、その後黒くなる色素沈着(サンタン/suntan)が急性の障害であり、良性・悪性の腫瘍などが慢性の障害です。紫外線という有害な光を浴びれば、その浴びた量に応じて皮膚はダメージを受けることになるのです。
太陽光に含まれる光線
紫外線の皮膚への影響
紫外線の種類 | 波長 | 特徴 |
---|---|---|
UVA | 320~400nm | 色素沈着(サンタン): 短時間で回復 紅斑(サンバーン):軽度 皮膚発がん作用:軽度 UVBの作用を増強 |
UVB | 290~320nm | 色素沈着(サンタン):強い 紅斑(サンバーン):強い 皮膚発がん作用:強い |
UVC | 190~290nm | 紅斑(サンバーン):最も強い 皮膚発がん作用:最も強い |
紫外線に対する皮膚の働き
それに対し、人の皮膚には防御機能があります。皮膚というのは、「人体で最大の臓器」です。体の一番外側にあり、外界の攻撃から体を守る働きと、体の内部の水分を失わないように守る2つの働きがあります。
健康な皮膚は紫外線障害も防ぐことができるのですが、屋外スポーツをする場合などでは、自然に備わっている防衛力では不十分となってしまいます。そして、皮膚が本来持っている免疫反応も正しく起きなくなります。
少し大げさな言い方かもしれませんが、簡単に言うと、「生きる力が落ちている」状態です。当然パフォーマンスも落ちることになるでしょう。ヒリヒリするとか、日焼けをするなどの症状が起きたら「もう、これ以上紫外線を浴びてはいけない」という皮膚からの警告メッセージと受け止めるべきでしょう。
なるほど。体の防御能力が落ちている状態と理解すると、パフォーマンスにも悪影響を与えるであろうことはすぐに想像できますね。
そのあたりはスポーツの現場でも意識されてきています。あるプロ野球の監督は、「疲れが蓄積されやすくなる」ので、日焼けしないように指導しているとおっしゃっていました。例えば日焼けでヒリヒリするような状態では、マッサージを含め試合後のケアもおろそかになります。疲れを翌日に持ち越さないためにも、日焼け防止に努めているとのことでした。
なお、紫外線により肌の免疫力が落ちていると、肌トラブルが目立つようになることもあります。日差しの強いシーズンにおける合宿や長い練習の後で、ニキビやヘルペス、口内炎などにかかる選手が多くなっているケースなど(もちろん他の原因もあります)が代表的な例と言えるでしょう。
スポーツにおける紫外線対策
次に予防についてお聞きしたいのですが、競技をする環境によっても注意するべきことは違いますか?
トレーニングをする環境条件についての配慮は必要です。例えば高地トレーニングというのがありますが、一般的に紫外線は標高が高いほど多いと考えられます。
また、時期としては日本では5月から7月、1日の中では11時から14時頃、紫外線の量が多くなります。
さらに、反射光の影響はプレーする場所によって大きく異なります。太陽から直接浴びる光を100とすると、反射光の割合は芝生で1.2%、コンクリートで5.5%、水面で5~20%、雪面に至っては85~88%となります。
予防という意味では日焼け止めがわかりやすいと思いますが、選び方や塗り方のアドバイスはありますか?
日焼け止めの選び方
いわゆる日焼け止めには、紫外線防止効果を表すためにSPFとPAという表示がされています。SPFは先ほどの表にあるUVBに対する効果を数字(SPFの最大値は50。それを超える場合は50+と表示されます)で示しています。PAはUVAに対する予防効果について、+から++++までの4段階で表しています。この両方の表示がある商品を選ぶことをおすすめします。
ただし、この商品はSPF20だとか、あれはSPF50だ、といった数値がどのくらいかにこだわるよりも、スポーツをする場合には、「習慣として続けやすいかどうか」のほうがむしろ重要かもしれません。塗るのが面倒くさい、使い心地が良くないといった理由で継続しなくなるのは回避すべきです。
継続しやすいかどうかで考えると、近年増えてきているスプレータイプのものは手足にも塗りやすく、軽くなじませれば時間もかからないので、ハーフタイムや練習前に使うにはおすすめかもしれません。
なお、最近の日焼け止めはスポーツで汗をかいてもある程度効果が持続します。ですからゴルフのように朝から夕方まで長くプレーするといった場合をのぞいて、それほど神経質に何度も塗り直す必要もないでしょう。続けることのほうが大事なのです。
日焼け止めの塗り方
顔はもちろん、脚や腕など露出している部位に塗りますが、ユニフォームなどを着る前に塗るとよいでしょう。特に袖口や首まわりなど境目の部分が日焼けすることが多いので注意しましょう。耳の後ろなどは無防備になることが多いので気をつけたいですね。
日焼け止め以外の事前・事後の対策についてはいかがでしょうか。
事前対策
ご存じの方も多いと思いますが、紫外線の害を少なくする抗酸化ビタミンを摂るようにこころがけましょう。具体的にはビタミンA・C・E(ビタミンエース)を多く含む緑黄色野菜や果物に代表されるような食品ですね。また熱中症対策と同様に、紫外線対策という観点からも水分補給は重要です。
時間的にゆとりがあれば、いきなり強い日差しに身を置くのではなく、徐々に肌を慣らしてあげるとよいでしょう。
ハーフタイムや休憩中
少しの時間でも太陽光を避けること、また発赤やほてりに対しては体を冷やすことをこころがけます。タオルで体を覆うことや、適度に冷やしたおしぼりなどを体にあてるとよいでしょう。
事後対策
日焼けによる発赤やほてりが見られる場合は、まず冷やすことが大切です。シャワーや、冷やしたタオルなどを使います。この時、タオルやおしぼりは冷たすぎるものは使わないようにしてください。
痛みや腫れが強い時にはステロイドを含むクリームやスプレーを使います。その後のスキンケアとして、保湿剤にビタミンA、C、E、βカロチンなどの入ったジェルやクリームをおすすめしています。
ドクター紹介
- 上田由紀子先生
医学博士・日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・日本スポーツ協会公認スポーツドクター。 専門はスポーツ医学における皮膚科分野。 1984 年ニュー上田クリニック(千葉県浦安市)開業。 2001年国立スポーツ科学センタースポーツクリニック皮膚科を兼任。
著書:『スポーツと皮膚』(文光堂)、『ようこそ、これからのskin careへ』(奥村印刷)
ザムストの紫外線対策アイテム
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