長距離ランナーとスリーブ|帝京大学 駅伝競走部インタビュー
筋肉疲労を和らげるためにさまざまなコンプレッションウェア(ギア)が開発されるようになってきています。コンプレッションスリーブもその一つです。トップアスリートの実際の活用シーンを探るため、第100回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝 2024)の出場権を獲得した帝京大学駅伝競走部のお二人に話を伺いました。
筋肉疲労とコンプレッションスリーブ
第99回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝 2023)10区でアンカーを任された日高拓夢選手(4年)にお聞きします。スリーブを使用したきっかけを教えてください。
実は高校まで使ったことがなく、大学で初めて使うようになりました。最初こそ少し違和感がありましたが、自分は割りとふくらはぎに負担がかかる走り方なので、スリーブを装着することでふくらはぎの揺れが軽減されるのを実感しました。
パフォーマンスにも影響はありましたか?
ポイント練習※ではじめて装着してラストスパートをかけた際に、いつもよりも疲労が残らず自然とスピードもあげられた感覚があったので、試合でも使ってみようという気持ちになりました。結果、2022年10月の1万メートルの試合で自己ベストを更新し、箱根駅伝出場に結びつけることができたと思います。
※ポイント練習とは:ポイント練習は、レース前の高速なペース走や高強度のトレーニングなどを含む総称であり、心肺機能や筋力を向上させる目的で行われます。このようなトレーニングは、走力を向上させるために周期的に実施されます。
つけ始めの違和感はどのくらいでとれましたか?
実は1カ月くらいは違和感がありました。でも疲労がたまらなかったという感覚があったので、違和感よりも疲労がない状態で練習をしたい気持ちを優先して継続して使ってみました。
圧迫(コンプレッション)することで筋肉疲労は和らぐの?
筋肉疲労のほとんどは運動による筋肉の収縮によってもたらされます。そして、疲労は走るという運動とは直接関係ないところでも蓄積していきます。筋肉は走ったり、衝撃を受けたりすることで振動します。人の身体は無意識のうちにこの無駄な振動(揺れ)をコントロールし、抑えようとする力が働きます。こうした余計な筋肉の動きが長時間の運動の中で蓄積され、やがてスタミナロスやパフォーマンスの低下につながると考えられています。
また長距離走では腕が振れなくなることもあります。これは着地時の衝撃が腕にも伝わるためで、足と同様に無駄な筋肉振動が発生します。 このような振動は外部から適度に圧迫(コンプレッション)することで抑えることが期待されています。 多くのカーフスリーブやアームスリーブはこのような考えから開発されています。
寒さ対策としてのコンプレッションスリーブ
次に1万メートルで28分台を記録し、箱根駅伝 2023では3区を走った小林大晟選手(3年)にスリーブを使いはじめたきっかけをお聞きします。
10月の試合で初めて使いましたが、そのときは疲労対策というよりも寒さ対策として装着しました。自分はふくらはぎが張りやすい走り方なのですが、スリーブによる疲労軽減も実感できたので、そのまま箱根前の合宿や大事な練習でも使うようにし、箱根駅伝当日も寒さ対策と疲労対策のため、スリーブを装着して臨みました。
駅伝での疲労対策というのは、やはりふくらはぎの疲労対策ですか?
そうです。駅伝は硬いアスファルトのロードを走ることで、トラックを走るよりもふくらはぎの負担が大きいと感じています。自分は大学に入ってから疲労骨折を複数回経験していて、走り方にも原因がありますが、ふくらはぎの張りによる疲労にも対策するようにしています。スリーブも対策の一つですね。
寒さも、走りの質やコンディションに影響を与えるのでしょうか?
そう思いますし、むしろ結構大事なポイントだと思っています。暑すぎても寒すぎても対策をしないと記録に影響が出ます。暑いより寒い方が記録は出やすいのですが、寒いと筋肉が張りやすくなります。先程話したように、ふくらはぎが張ることで、疲労が蓄積すると記録にも影響しますし、なによりも大きな怪我につながるリスクもあるので、慎重に対策すべきだと思います。
スリーブで寒さ・暑さ対策になるの?
ザムストのコンプレッションスリーブの場合は、HeiQ「SMART TEMP」という生地を採用し、皮膚温に反応して汗を乾かす量を調整することで体温をコントロールします。暑いときには効率的に汗を蒸散して体温を下げ、寒いときには生地が汗を保持することで気化熱による体温低下を抑えます。
2023年9月にこのインタビューが行われた直後、第100回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝 2024)の予選会で、帝京大学は素晴らしい成績で17年連続、25回目の出場を確定しました。前回の大会でシード落ちした悔しさを晴らす活躍を本大会でも期待しましょう。
参考文献
- 『対策HANDBOOK 効果的な疲労対策』ZAMST