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野球肘|症状と予防 オーバーユースに起因する肘のスポーツ障害

ジュニア期の野球投手によく見られるスポーツ障害の一つが野球肘で、投球過多やオーバーユースが原因となっています。この障害は成長期の骨に影響を及ぼし、肘の痛みだけでなく、将来的な骨の変形という深刻な問題を引き起こすことがあります。このため、甲子園に出場する投手たちは、肘の状態を詳しく調べるメディカルチェックを受けることが必須となっています。バレーボール、テニス、やり投げなどオーバースローの動作を行う選手にも同様のリスクがあります。

野球肘とは

野球肘はその名が示す通り、主に野球における投球動作により引き起こされるスポーツ障害です。特に10歳から16歳の成長期にある投手に多く見られ、オーバーユース(使い過ぎ)が原因となります。この障害は、投球する側の肘の①内側、②外側、③後方(肘頭)に痛みを生じさせることが主な症状です。

野球の投球動作は、ワインドアップ期、コッキング期、加速期、リリース減速期、フォロースルー期の5相に大別され、野球肘は特にコッキング期、加速期、フォロースルー期の動作が影響します。

内側型の野球肘

内側型の野球肘は、投手が足を踏み込んで接地した時からボールが手から放されるまでの動作(コッキング後期~加速期)の繰り返しによって引き起こされます。この動作の間に、肘関節は外反し、肘の内側に牽引力が加わります。この力の影響で、内側側副靱帯などが伸び、損傷を受ける可能性があります。さらに重い症例では、上腕骨内側上顆(じょうわんこつないそくじょうか)が剥離骨折することもあります。小学生に多いのはこの内側型の野球肘です。

外側型の野球肘

外側型の野球肘も同じ動作時(コッキング後期~加速期)の負荷によります。肘の内側が牽引力を受ける一方で、外側には圧迫力が働きます。この力によって上腕骨小頭に負荷がかかり、結果として骨の壊死(えし)、欠損、遊離体などの離断性骨軟骨炎が生じます。

後方型の野球肘

フォロースルー(ボールが手を離れて投球が終わるまでの動作)における負荷が、原因となります。この時、肘関節が過度に伸ばされることで、尺骨肘頭に牽引力が働き、それが繰り返されると剥離や疲労骨折などの問題が発生する可能性があります。

 

特に外側型の野球肘は注意が必要です。痛みが認識しづらい(発見が遅れやすい)ことに加え、進行によっては手術が必要です。また競技復帰が困難になることも多く、それだけに早期発見が重要です。

野球肘の症状

内側型:肘の内側にはっきりとした圧痛(押さえると痛みを伴う)や腫れ、投球時の肘の痛みが見られます。また、肘の動きが制限される場合もあり、時折、小指側にしびれを感じることがあります。

 

外側型:肘の外側部分に痛みに加え、ロッキング症状(ロックされたように動かせない状態)が出ることもあります。前述の通り、痛みが少ない傾向にあり、痛みを感じはじめた時には進行しているケースがあるので注意が必要です。

 

後方型:肘の後ろ側に圧痛があり、投球時に痛みが生じます。また、ロッキング症状を示すことがあります。

野球肘の治療とリコンディショニング

肘に痛みを感じたらどうすればよい?

まず、主原因であるオーバースローのピッチング動作の休止を徹底しましょう。この時、疲労だろうと安易に考えることは禁物です。すぐにスポーツドクターまたは整形外科を受診しましょう。

野球肘の治療とは?

  • オーバースローによるピッチング動作を休止し安静にします。
  • 骨に変化が見られる場合は、少なくとも3ヶ月以上のスローイング動作を休止する必要があります。
  • 骨に変化がある場合には、1年から3年程度の長期にわたるフォローアップ(経過観察)が必要です。
  • 肘がロッキングするような遊離骨片がある場合は、その骨片を取り除く手術が必要になることがあります。

予防のために心がけることは?

地域によっては、少年野球選手を対象とした「野球肘検診」が行われています。投球フォームや体のケアに関するアドバイスなどに加え、超音波検査により発見の難しい離断性骨軟骨炎のチェック等が行われます。野球肘検診の機会がある場合には積極的に参加しましょう。

 

また、痛みを自覚できない場合でも、肘に違和感(伸びにくい、曲がりにくい)がないかは日頃から意識し、不安があればすぐに整形外科の診察を受けましょう。

野球肘のリコンディショニング

ストレッチング:練習前後のストレッチングは、全ての障害を予防するために重要です。肩や肘などを中心に行いましょう。ピッチングが全身運動であるため、股関節や体幹の柔軟性を保つことも大切であり、特に肘関節の場合は前腕屈筋群と伸筋群を重点的にストレッチすることがポイントです。

前腕・手首のストレッチ

アイシング:ピッチング後のアイシングも推奨します。ただし、「痛みを感じたり、投球数が多くなったりしても、アイシングをすれば大丈夫」ということではありません。

 

投球制限のルールづくり:骨が柔らかい成長期では、投げ過ぎないことが最も効果的な予防法です。ただし「これ以上投げると障害を起こす」、「これ以下であれば安全」という明確な基準がないため、チームで投球数や連投の禁止などのルールを決めておくことを勧めます。

参考文献

  • 『SPORTS MEDICINE LIBRARY』ZAMST
  • 『対策HANDBOOK 肩・ヒジ・手首・指の痛み』ZAMST
  • 医療情報科学研究所 『病気がみえるvol.11 運動器・整形外科』メディックメディア

記事監修・整形外科医

毛利 晃大先生
毛利 晃大先生
順天堂大学医学部卒業、日本救急医学会専門医、日本整形外科学会会員 日本医師会認定スポーツ医、日本バスケットボール協会スポーツ医学委員会所属ドクター