脊椎損傷を乗り越えての競技復帰|スノーボーダー・芳家里菜選手
2022年北京での活躍が期待されていたスノーボーダー・芳家里菜選手。彼女はスロープスタイル、ビッグエアに出場予定でしたが、直前の公開練習中に転倒し、脊椎損傷という大ケガを負いました。その結果、欠場せざるを得なくなったことはもちろん、一時は彼女の選手生命も心配される状況となりました。しかし、それから間もなく、彼女は再び次の挑戦に向け動きだしました。今回は、トップアスリートとしてのケガからの復帰の過程や、サポーターの活用について、芳家里菜選手にインタビューしました。
脊椎損傷から練習復帰までの道のり
北京での大ケガの後、復帰までの流れを教えてください。
(手術から3ヶ月)車椅子生活
手術後、帰国してからの最初の3ヶ月は、車椅子生活を送っており、大きな動きは控えていました。時間をかけて立つ練習を増やし、その場でスクワットを行うくらいでした。この期間を経て、歩行が徐々に可能となり、外に出ることもできるようになりました。
(4~6ヶ月)慎重にリコンディショニング
この頃は、地元でパーソナルトレーナーと相談しつつ、リコンディショニングを非常に慎重に、少しずつ進めていきました。
国立スポーツ科学センター(JISS)に行ける程度まで回復したので、診察とリハビリをしながら、トレーニングメニューを組んでいただき、パーソナルトレーナーと相談しながら実施をしていきました。 スノーボードを実際に再開すると、ターン時に体が倒れてしまうなど、以前のようには動けないことを感じました。特に、体幹や背中、腹筋の筋力の低下が顕著でした。そのため、実際に滑りながら起きる問題に合わせて、トレーニングメニューの微調整を行っていきました。そして、ケガからおおよそ1年が経過し、ジャンプの練習も再開できるようになりました。
練習復帰の判断はどのようにされるのでしょうか
ドクターとトレーナーに相談をしながら進めていきます。ただ、以前の前十字靱帯のケガの時は術後からメニューもはっきりしていてわかりやすかったのですが、脊椎損傷からスノーボードの試合に復帰するという事例が多いわけではないので、手探りの部分が多かったです。
そのため、明確な正解は存在せず、ケガの深刻さは個人ごとに異なるため、可能な練習を段階的に増やしていく過程で、最終的には自らの判断が必要となります。結局やりすぎて、シーズン後半になって「これ以上やると危ないよ」とドクターから注意を受けることもありました。このあたりの判断の難しさは、大きなケガから復帰をする選手やそれを支えるトレーナーに共通の悩みかもしれません。
大会のタイムラインは、復帰判断にプレッシャーを与えますか
2026年のイタリアに照準を合わせると、2023年、2024年のシーズンが、重要になってきます。これからのシーズンで、世界ランキングを上昇させるためのポイントを獲得する必要があるのです。また、日本はスノーボードのフリースタイルでは強豪国で、大会出場の枠を確保するためには、復帰後すぐに高い成績を挙げる必要があります。
こういう状況で私だけで判断すると自分を追い込みすぎてしまい、二次的なケガのリスクも高まります。トレーナーをはじめ、サポートしてくれるチームが、私にいかに無理をさせないかという視点でマネジメントしてくれています。
足首捻挫・前十字靱帯損傷とサポーター
北京の前にも、2016年の前十字靱帯損傷から復帰されていますね。芳家選手は「ザムストアンバサダー」に就任する前からサポーターを使用いただいているそうですが、ケガからの復帰や予防とサポーターとの関わりについて教えてください。
まず私は足首のケガに悩まされていました。そのため、ふくらはぎを鍛えたり、体幹を鍛えて着地の姿勢をよくしたりするという予防策を実施しつつも、これらはすぐに効果が得られるものではありません。なんとか海外遠征中に補強できないかなと思いました。
テーピングでは肌が荒れたり、競技中にずれたりすることがあるため、サポーターを検討していました。その中で、ブーツに合う薄さのFILMISTA〈フィルミスタ〉を試すこととなったのです。 その遠征時、足首のトラブルも起こらず、使い心地も良かったので、以後は予防目的で使用しています。また、前十字靱帯のケガの再発予防もかね、膝のサポーターも使用しています。
サポーターは、ウェアやブーツに気にならずつけられるのでしょうか?
実際の使用感は人それぞれかと思います。多くのスノーボーダーは自分のスタイルを重視しますので、膝にサポーターを付けることで思ったようなパフォーマンスが出せない、あるいは膝が硬くなって思うように滑れないと感じる方もいるでしょう。しかし、私の場合は膝が安定していることが自分の滑りをするための条件だと考えており、サポーターがなくて着地でつぶれるようなことがあると逆に良くないと感じています。むしろ、サポーターをしていない方が怖さを感じてしまいます。
サポーターは、競技中にも使用しているのでしょうか?
膝のサポーターに関しては、練習時や試合中も使用しています。一方、腰のサポーターに関しては過度に依存しないよう心掛けています。サポーターに頼ることで筋力が衰えるのを避けたいと感じており、練習の際はなるべくサポーターなしで行い、主にトレーニング時に使用しています。このような選択は選手やトレーナーが、自身の部位ごとの特性や状況を考慮して判断することが重要だと思います。
インソールの使用状況についても教えてください。
私は足首が弱いので、捻挫のリスクをできるだけ低減したいという思いから、日常生活を含めてインソールを常用しています。競技での使用という面では、特にブーツの中でずれない感覚を重視しており、インソールの存在が役立っています。
さらに、足の疲れを軽減する効果や、足裏の感覚を研ぎ澄ますためにも使用しています。私自身、足の拇指球、小指球、そしてかかとの3つの点でバランスをとる姿勢をしっかり保ちたいため、インソールはそのサポートとして非常に重要です。
実際、スノーボード選手の間でインソールの使用は一般的です。インソールの厚みには好みが分かれるようで、私自身は薄手のものを好む傾向にあります。また、かかと部分のホールド感を重視して、しっかりとしたサポート力のあるインソールを選ぶようにしています。足裏の感覚はスノーボーディングにおいて非常に大切なので、選手それぞれが自分に最適なインソールを見つけることが大切だと考えています。
ケガの予防やサポーターの使用について選手同士で情報交換を行っていますか?
私も含め、選手は大きなケガを経験するまで、予防に対する意識がなかなか高まらないものです。ケガ後、多くの人がその大切さを実感し、対策を検討するようになります。最近では、私の周囲でもケガの際の対応や予防方法についての話題が増えてきました。復帰の道のりを歩む中で、このような情報共有がより一層活発になることを期待しています。
何度も困難な状況を乗り越え、見事に復活を遂げてきた芳家選手。彼女の2026年に向けた新たな挑戦に、皆さんも注目してみてください。